久しぶりに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する知見をまとめていこうと思います。
今回は、今話題の、
- 新型コロナウイルスワクチン
- 各種変異株
の2本立てです。
(※当該ワクチン接種は「努力義務」です。接種を勧める意図はありません。)
目次
新型コロナウイルスワクチン
我が国でメインとなっているワクチンはいずれも欧米メーカー製のもので、
ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの3社となります。(執筆時点)
2021年2月17日からファイザー社ワクチン(コミナティ筋注)の接種が始まり、2021年5月24日より大都市圏で始まった大規模接種(65歳以上)からモデルナ社ワクチン(COVID-19ワクチンモデルナ筋注)(国内ライセンス生産)の接種が開始され、現時点で2社のワクチンが国内で接種できる状態になっています。
[mRNAワクチンについて]
このうち、ファイザーとモデルナについては聞き慣れない「mRNAワクチン」という種類のワクチンとなります。
各疾患で利用されるワクチンの種類は様々ですが、子供の時にお世話になるのはほぼ全て、
弱毒化ワクチン(生ワクチン)か不活化ワクチンです。
これらは単純に、感染力を削いだ本物のウイルスを体内に取り込んで、感染したテイで抗体を作る、というシステムです。
一方、今回登場したmRNAワクチンはウイルスのレシピ(遺伝子情報)だけを体内に取り込みます。
mRNA(m=messenger:伝達)とはセントラルドグマにおいて、タンパク質のDNAにコードされたそのタンパク質のレシピのコピーを携えて新たにタンパク質を合成する重要な役割(翻訳)を担うRNAです。
(mRNA発現量は分子生物学の実験系で細胞内の目的タンパク質の遺伝子発現量の指標として利用されている)
セントラルドグマをお忘れの方はこちらをご参照ください。
(学部生時代に大変お世話になりました。)
今回のSARS-CoV2 mRNAワクチンは宿主細胞への侵入に重要とされているスパイクタンパク質というウイルス表層タンパク質のみを作る設計図を持ったmRNAを体内に取り込むことで、
ヒト細胞内で抗原タンパクを合成して(重要)、抗体を産生させるという点が最大の特徴です。
(レシピのコピーを持ったmRNAが細胞内で材料を調達して、その場でレシピ通りのタンパクを完成させるということ。病原性を示す部分がレシピに書かれていないので、感染力のない中身空っぽコロナウイルス表層タンパクだけができる。そこにスパイクタンパク特異認識抗体が引き寄せられて抗体獲得となる。)
従来のワクチンを「加工貿易」と例えるなら、今回のmRNAワクチンは「完全自社生産」と言えるでしょうか。(いや、なんか違うけどざっくり。)
抗体を産生するための手間もコストも非常にコンパクトに済みます。
また、従来のように外から抗原を取り入れないので、通常の侵入抗原に対して起こる免疫反応(生体防御)発現の可能性が低く、カラダに優しい、と言われています。(詳細不明)
ご存知の通り、今回のmRNAワクチンの最大の事実は、
- 開発に10年かかると言われたものを1年で完成させた
- 世界初の実戦登用
ということ。
そう、mRNAワクチンが人類に投与されるのは人類史上今回が初。
いろいろ討論されていますが、結局わからないことの方が多く、これからの経過、発展が今後の人類史を左右するということ。
アルマゲドンではないけど、人類の底力・団結力をどこまで発揮し、戦えるか。
研究者に感謝しつつ、見守りたいと思っています。
[ワクチンについてわかっていることは全て厚労省が公開している]
各種メディア等(特にヤフコメはヒドイ)でワクチンについては色々言われていますが、現在日本で使用されているワクチンについてわかっていることは全て、厚生労働省の特集HPに集約され、随時更新されています。
これ以上もこれ以下もありません。
また、接種に関わる最新の統計については、以下のように定期的に集計され、どのような人がどれだけの人数接種し、どのような副作用(副反応)がどの程度出ているのか、世界中から閲覧できるようになっています。
新型コロナウイルスの投与開始初期の重点調査(コホート調査)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000784442.pdf
ワクチンの効能は性差・年齢はもちろん人種間でも大きな違いが出てくるので、日本で取った統計を参考にするのが一番いいかと思います。
この報告によると、
- 副反応として最も頻度が高いのは接種部位反応(接種部の疼痛・発赤・硬結など)
- 発熱、頭痛、全身倦怠感は1回目ではほぼないが、2回目ではかなり頻度が高い
- 発熱、全身倦怠感は高齢者よりも20,30代の方が頻度が高い(特に若年女性に顕著)
- 副反応は接種当日〜翌日に発現しおよそ5日目頃にほとんど消失する
- 被験者には2回目接種翌日の勤務は控えるよう勧告した。6.5%が病休した
ざっとこんな感じです。
大事なことは、
現時点でワクチン接種に伴う重篤な副反応を起こす可能性は限りなく低い。
ということ。
これは同じmRNAワクチンのモデルナ社製品や英国で問題になっているアストラゼネカ社製品(ベクターワクチン)についても同じことが言え、ワクチン接種自体はあまり恐ることではないことがわかってきました。
(※アストラゼネカ社ワクチンは治療可能な脳静脈洞血栓症(CVST)の発症報告があり騒動となりましたが、頻度が約700万人分の数人と「非常に稀な重篤な副反応」との認識が強くなってきています。)
ファイザーの添付文書を読んでみよう(厚労省・ファイザー社発行)
- コミナティ筋注添付文書
https://www.mhlw.go.jp/content/11123000/000738743.pdf
先ほどのリンクからも見れますが、現在日本で使用しているファイザー社のSARS-CoV2ワクチン:コミナティ筋注についてはお薬として世に出ている以上、添付文書という家電でいうところの「取扱説明書」が発行・公開されています。
これには、成分、効能、使用方法はもちろん、接種する際注意が必要な人、接種してはダメな人、また臨床試験で得られた副反応の頻度、ワクチンの有効性など事細かに記載されており、これを熟読すれば、この製品についてはおおよそマスターできます。
(※添付文書記載の臨床試験データのサンプルは海外のもので日本のものは含まれません。)
主な副反応
ちょっとだけ抜粋します。
まず副反応ですが、重篤な副反応(ショック・アナフィラキシー)については「頻度不明」とあるものの、先の厚労省の報告を見る限り、目立って多い訳ではないことがわかります。
その他副反応については約2ヶ月間追跡調査をしているので少し高めに出ていますが、高頻度のものは馴染みのあるワクチンとほぼ同じ印象です。
ワクチンの有効性
続いて気になるワクチンの有効性です。
VE1が感染既往なし、VE2が既往を問わず、です。
いずれも95%とびっくりするくらい高い有効性を示しています。
ワクチンを接種しても1万人に4~5人程度は感染してしまうようです。
日本の報道でも2回接種を終えた医療従事者がポツポツと感染していますが、ホントにこれくらいの頻度だと思います。
インフルエンザウイルスワクチンの有効性がおよそ50%との報告があるので、いかに有効性が高いかがわかります。
ちなみに2021年5月にNEJM誌(非常に影響力のある学術誌)にファイザー社のワクチンが現在確認されている英国変異株&南ア変異株(通称)にもかなり高い有効性を示していることが報告されました。まだまだ戦えそうです。
Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants
(感染研の報告でモデルナ社製も同程度の効果があるとのこと)
日本での有効性
日本での有効性は国立感染症研究所の報告で公開されており、
- 1回目接種後〜2回目接種まで:52.4%
- 2回目接種後〜接種後7日目:94.8%
さらにワクチン接種後のCOVID19発症報告の頻度は1回目接種後12日前後より減少すると報告があり、非接種者と比べて約半分、接種後28日以降についてはなんと0.14倍もの抑制効果があるとの報告されています。
新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)を接種後のCOVID-19報告率に関する検討(第1報)
(※ただし2回目接種の適正日を1週間も過ぎると1回目の効果が消失してしまうと言われており、確実な効果を発揮するためには厳密で適切な2回分の接種スケジュールを立てることが重要)
既感染者におけるワクチンの有効性
ちなみにコロナ既感染者へのワクチン接種における有効性も速報感はありますが論文化されています。
これによると、既感染者は1回接種で未感染者の2回接種と同等の有効性を示すそう。
ただし、被験者は感染から接種までの期間が1~3ヶ月と比較的直近の感染者、しかもサンプル数たったの38人と限定的なのでやはりまだよくわからない、というのが実際のようです。
SARS-CoV-2 Antibody Response in Persons with Past Natural Infection
重篤な副反応の頻度
重篤な副反応=アレルギー反応
が発現する頻度はアメリカのCDC(疾病対策センター)が報告を出しており、
- ファイザー社:21人/190万人
- モデルナ社:9人/400万人
ということで、極めて稀と言えます。
アレルギー反応が出た方はもれなく、日常的にアレルギーを持っている方だったそうで、アレルギーがない方はまず気にしなくていい点です。
What to Do if You Have an Allergic Reaction After Getting A COVID-19 Vaccine | CDC
アレルギー発症は接種後15分以内がほとんどで、発症者は全員エピネフリン筋注の処置を受け、軽快。もし発症しても安心ですね。
ちなみに日本では、5月16日までの報告で146件。
24人/100万人(0.0024%)の確率となります。
また、接種後の死亡例についても日米両国で因果関係ありと認定された症例はゼロです。
副反応の報告としては骨折や食欲不振などのかなり主観的な症状、また死亡例では老衰、自殺など、明らか関係なさそうでも複数ちゃんと報告されているあたり偉いなと思います。
第60回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料
(接種会場ではアナフィラキシーの既往のある方は念のために30分フォローするように言われている)
[ファイザー社とモデルナ社の副反応の違い]
同じmRNAワクチンを採用している両者のワクチン有効性はほぼ同じですが、副反応の頻度に若干の違いがあるようです。
簡単にまとめると
- 両者とも発現する副反応の種類は大体同じ
- 2回目接種での報告が多い
- 頻度はモデルナ社の方がやや多い
- 両者とも65歳以上の対象者からの副反応の報告は少なかった(CDC V-safe)
ということだそうです。
モデルなの方が副反応が多いことについては、1アンプルに含まれるmRNAの含有量がモデルなの方が多いのが理由と言われています。(詳細不明・効果はファイザーと同じです。)
日本の場合、接種後の注意事項として、先に接種の始まっているファイザー社のワクチンは2回目接種の翌日は仕事を休むよう勧告しており、働く世代は基本的にしんどい副反応が出ると想定しておいた方が良さそうです。
Reactogenicity Following Receipt of mRNA-Based COVID-19 Vaccines | Vaccination | JAMA | JAMA Network
[職域接種・一般接種をされる方はこちらをご参照ください]
日本では医療従事者および高齢者に接種されるワクチンはほぼファイザー社製で確定しています。(※5月24日よりモデルナ接種開始)
一方で、職域接種と一部大規模接種会場ではモデルナ製の接種となります。
モデルナ、アストラゼネカもファイザー社製同様、厚生省HPにて各社製品の最新情報が更新されていますので、以下のリンクをご参照ください。
つまるところ、ファイザーとモデルナは同じモノ・効能と考えて頂いて問題ありません。
新型コロナワクチンの有効性・安全性についてについて|厚生労働省
↓↓
「役所仕事の文章は読みにくい!!」という方、アメリカの政府機関:CDC(疾病予防管理センター)のコロナワクチン特設サイトが一般向けに非常にわかりやすく、欲しい情報を得やすいように説明してくれていますので、オススメです。
アメリカでの接種事情もよくわかります。
[Yahoo!の特集サイトが秀逸でした]
国内の接種方法・状況等についてはyahooにだいたいまとまっています。
結局のところ、これさえ読んでおけば今わかっているワクチンの知見・状況は網羅できます。
[ワクチンの歴史・mRNAワクチンについてわかりやすく解説しています]
もう一つおまけで。
中田敦彦さんのYouTube大学で今回のワクチンについて非常にわかりやすく解説しています。(発言の正誤問わず)
とにかくワクチン関連の知識を頭に入れたい!!という方は是非ご覧ください。
エヴァ例えの部分は爆笑しました(笑
変異株について
執筆時点で日本で流行している変異株は英国株(α)、南アフリカ株(β)、ブラジル株(γ)の3種です。
その他認知されているものとしては、フィリピン株、カリフォルニア株、そして…インド株(δ)があります。
[変異=アミノ酸置換]
そもそも「変異」って何が変異しているの?って話かと思うのですが、皆さんが想像している以上にちっさな変化で、1つか2つの遺伝子情報が書き換わっている程度のことなんです。
ウイルス表層のスパイクタンパク質を形成するアミノ酸配列が別のアミノ酸に「置換」されることでウイルスタンパクの性質「変異」するのです。
(足の小指の爪を切ったら体全体のバランス変わった...みたいな?)
ちなみに、SARS-CoV2のアミノ酸配列は全長1,273アミノ酸、RNAとしては約3万塩基。
このうち437~508番目の配列がコロナウイルスのスパイクタンパク質の中でも、細胞内に侵入に重要なACE2受容体に結合するbinding domainとして同定されています。
で、意外とアミノ酸置換はたくさん起こっていて、
先述の有名な変異株はこのACE2 binding domain内のE484KかN501Yのsingle mutantがベースとなっており、やっぱりACE2が重要なのねって印象です。
(例: N501Y →501番目のアスバラギン(N)がチロシン(Y)に置換)
ちなみにインド株はE484Q/L452Rのdouble mutantsでこれまでの変異株とは完全に別物となります。
SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統について(第2報)
神戸型変異株
21年6月1日に国内初となる神戸型変異株の報告が出ました。
この変異株は英国型に特徴的なN501Y変異とインド型に特徴的なE484Q変異のダブルミュータントで、発見された以上、国内で流行するのは不可避で、まだ国内での動向が不明なインド型系が含まれていることで今後どうなっていくのかは注目です。
↓変異株発見についての神戸市発表資料↓
https://www.city.kobe.lg.jp/documents/43130/henikabu0601_n501y_e484q.pdf
[日本での変異株の傾向]
mutationとかそんなマニアックな話はやめにして、気になる国内での変異株の傾向をまとめて行きたいと思います。
- 調査対象: 英国・南ア・ブラジルの3株 (全110例)
- 年齢: 中央値 42歳、40-65歳の区間が最もリスク比が高い
- 年齢分布: 10歳未満(18.2%)、30代(16.4%)、40代(15.5%)の順で多かった。
- 実効再生産数: 従来株の1.32倍高い
- 感染経路: 80%が既感染者との濃厚接触あり
- 症状の有無: 83%に何らかの症状を認めたが、17%は無症状
- 治療介入:中症〜重症の計40例が投薬や呼吸器管理等の治療を受けた。
- 重症化率: ICUでの治療・管理を要したものは6例 (5.5%)であった。
- 重症化リスク比: 英国株と従来株で比較したところ変動的で評価困難であったが、従来株よりもリスクが高いと想定して対応する
- 致死率: 死亡転帰は1例(0.9%)であった。
- ※Limitation: 非常に限定的な調査のため既存株との比較は未だ困難。
ざっとこんな感じです。
症例数が少なく、どの点を取っても既存株との比較がまだできないのが現実です。
データを見ても気に留めて置かなければならないこと
今信じるものはこういったデータが全てです。
ただ、ウイルスもワクチンも世に出たばかりで、データーの信頼性はまだ不安定。
ウイルスなんかはこれからインフルよろしくどんどん変異して感染力の強弱などにバリエーションが出るでしょうし、ワクチンも変異株ごとに対応を変えなきゃいけないと思います。
その時はまた新しい検体でデータ取って...と状況はどんどん変化するでしょう。
(そうこうしているうちに専用の治療薬が完成すれば嬉しいのだけれども。)
最も今回のワクチンの「有効性」は強力かつ世界的な感染予防措置が敷かれた状態での有効性ですので、信頼度は高いとは言え、個人的にはかなりのバイアスはあると思います。
また、先述の通り、添付文書記載の臨床データにアジア圏(特に東アジア)で採取したデータが含まれていないので、日本人における傾向はまだまだ手探りです。
全てのデータは「今この瞬間はこれが正しいデータだけど、明日は変わっているかもしれない」と思っておいた方がよろしいかと考えます。
余談
[宝島社の企業広告が衝撃的だったので]
5/11に日経、読売、朝日の朝刊に一斉掲載された広告にこんなのがありました。
宝島社の企業広告なんですが、新聞各社と政権との距離感の遠近に関わらずこれほどまでに攻撃的でセンセーショナルな内容の広告をよく掲載するに至れたなと。
実物は見開きのかなり大きい広告で、それも相まってとても衝撃的でした。
個々の立ち位置にかかわらず、国民感情は意外と皆、同じ方向に揃ってきているのかな、と思ったりなどなど...
みなさんはこの広告から何を感じ、何を思いますか?
総括
実は・・・明日1回目接種を受けるので、いい機会と思い改めて勉強してみました。
ワクチンについては現役大学院生として「短期間でこんな模範的な結果出せるのすごいなぁ」なんて思ってしまうほど、優等生な結果で驚いているのですが、ある程度症例数が蓄積されてきているので、信じるほかありませんよね。本当にすごいです。
変異については進化の過程で必須なので、SARS-CoV2本人が「これいいね!!」て思えるようなmutationが入るまで何度も変異していくことでしょう。
世界を自由に往来できる日がすぐ側にきてくれるよう、祈るばかりです。
(今回の記事は確かなデータを基に記載していますが所々筆者個人の感想が含まれます。予めご了承ください。)
[関連記事]
一応1年以上前、2020年の1月と3月に関連記事を書いています。
まだウイルス名がSARS-CoV2ではなく2019-nCoVでした。
今読み返すとまだ楽観的な雰囲気があってすごく懐かしく感じます。
starwave-disneyandtravellife.hatenablog.com
starwave-disneyandtravellife.hatenablog.com